2007年07月15日

走り出した謀反計画

スメラミコトはもう意識がないことを隠すために大権禅譲の勅が発せられた日よりスメラミコトの部屋は秘された。
入口の前には大嶋の兵政官の手の者が正式に警固にあたり誰一人として自由に出入りできなくなった。
大嶋は不測の事態に備え皇后様と高市様の警護も兵政官を使った。
これは見方によっては皇后様と高市様の示威行動に見えなくもない。
皇后様は急ぎ大嶋を呼んだ。
「大嶋、何故厳重な警戒をするのじゃ。過剰な警護は戦闘態勢の様相に見え道作や行心を刺激するだけぞ。」
「皇后様、お言葉ですがスメラミコトの強奪が無理となった今彼の者らはどんな手に出るかわかりません。高市様からも皇后様の警護を厳重にするよう直接言い付かっております。」
「大嶋。」
朕は深くため息をついた。
「それと皇后様にお願いの儀がございます。大名児様の警護も我が手でいたしとうございます。万一大津様方に浚われては一大事。」
「ちょっと待て、大嶋!何と申す。あの2人は想い人同士ぞ。大津が浚うなどあるわけないではないか。」
「お言葉ですが『大津様が』、とは申しておりませぬ。皇后様が大事に想う方をその周りの者が利用しないとは言い切れませぬ。現に難波宮の件は大津様がご存知ないところで計画が進行していたではございませんか。」
「それはそうじゃが…。」
「ご了解頂けるのでしたら皇后様から柊殿にこのことをお話頂きたいのです。」
「柊が?如何した?」
「大名児様の警護は我らがいたします、と申し上げたら『吾は皇后様より大名児様の警護を申しつかっておりますゆえ皇后様のご命令なくばこの役、他のどなたにも譲ることはできませぬ』、と強く申され我らも手を出せませぬ。」
「そうか。柊がそのようなことを。そうじゃの。柊の言う通りじゃ。良いか、大嶋。雨乃はそのまま違う世界に返すべき女子、朕は雨乃に対しその責任があるのじゃ。朕が命じる。雨乃の警護は柊にまかせよ。あの者は朕が敬愛する此花の菊千代の翁が認めている男子じゃ。心配はいらぬ。しかし、朕の警護は大嶋、そちに頼む。その手で朕をしっかり守ってくれ。」
大嶋はまだ何か反論したそうだったが朕の身をまかす、と言われたので引き下がらないわけにはいかなかった。
「ご高配、感謝いたします。この命をかけ皇后様の御身をお守りいたします。」と下がった。

最近は誰と話をするのもその者の見えない意図を考察しなくてならない。
その中で最善と考える方法を選び一番大切なことのためには他のことには目を瞑る。
毎日毎日神経が磨耗していくようだ。
こんなことで朕は大津を、雨乃を守られるのだろうか?
朕はただ1人甘えられる存在である翁に無性に会いたかった。


一方、大津様に悟られないように道作は行心と会っていた。
「行心殿、先般は過分なご配慮、感謝申す。」
「あれは新羅の気持ちじゃ。新羅では儂の説得により大津様支持で一致しておる。援助は惜しまぬゆえ必要であれば申し出てくれ。」
「ありがたきこと。しかし最近の高市・皇后側は警備を厳戒にして我らを挑発しておるようじゃ。」
「少し薬が効きすぎたかもしれぬの。」
「何のこと?」
「いいや、何でもない、何でもない。大権が禅譲されたからにはスメラミコトを強奪しても意味のないこととなった。この上は力勝負しかない。」
「しかし『大権禅譲』などと今まで聞いたこともない。誰がそんなことを考えついたのじゃろう?」
「わからぬが誰か頭の良いヤツがついておるようじゃの。」
「このままの兵力で我らは高市・皇后側に勝てるであろうか?」
「何を申される。あの強大な唐を駆逐したわが国が支援すればこのような島国、屈服させるのはわけもないこと。筑紫に拠点を置くことも考えたがやはり難波より入り美濃と呼応し明日香を落とし高市と皇后を追いやれば大津様のお人柄に期待を抱いている群臣がわれ先にわれも先にと大津様の下に集うであろう。大津様はそういう星に生まれた御方じゃ。」
「そうじゃ、そうじゃ。吾も大津様のためにこの命などいつでも投げ出す。あとは大津様に申し上げるタイミングじゃの。」
「美濃の兵がもう少し整ってからで良かろう。後顧の憂いを失くしてから颯爽と大津様にお出まし願おう。」
「おう。吾は大津様がその凛々しいお姿で馬に乗り諸臣を随えておる夢を見るぞ。」
「もう少しの辛抱じゃ。こうなるとスメラミコトの命がもう少し長らえてくれると良いの。」
「そうじゃの。ともかく我らは準備を万全にしよう。」
「明日香から美濃へ抜ける道は用意できておるか?」
「そうなのじゃ。それは幾通りも考えておかねばならぬ。そして国境には兵を駐留しておかねばならぬの。」
「明日香からなら難波の方が近くはないか?」
「いや、難波の方が人目につくし海を背には守りにくい。我が故郷美濃なら山が多いし土地も熟知しておるので大津様をお守りしやすい。」
「よし、あとは少しでも味方を増やしておけると良いの。呼応しそうな皇子はどうじゃ?」
「大津様と竹馬の友の川島様、一緒に壬申年の戦の折桑名で時間を過ごした忍壁様、大津様を慕ってやまない忍壁様弟君磯城様はお味方頂けると確信している。」
「諸臣は如何?」
「中臣意美麻呂殿は大津様が登極の暁にはそれなりの地位を用意すると伝えたところ全面的に協力をすると約束しています。博徳殿も巨勢多益須殿も大丈夫でしょう。」
「よぅし、そうなればあとは博徳殿の知恵を借りて詳細な計画を練りましょう。穴があってはなりませぬ。我らも実際に会うのは今日を限りと致しましょう。あとは我が新羅の闇の者を使っての連絡とするのでご承知おきを。」
「はい。次にお目にかかる時は乾杯の杯を。」
「では大津様の御為に。」

この日から謀反は実行を念頭に置き走り出した。


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Posted by jasmintea♪ at 12:14│Comments(0)小説
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