2007年07月18日

突然の来訪

先日の火事以来外を歩く人が急激に減った。
「大津様が兵を挙げて壬申年の戦が再び起きるそうだ。」とか「難波の海から新羅が攻めてくるそうだ。」と、人々は噂をした。
何故、どこからそんな話が出るのかわからないがまことしやかに伝わり壬申年の混乱を記憶している人達は財産を隠したり、逃げられる場所を確保したりしていた。
そんな政情不安を煽るように火付けや強盗が横行し自分の身は自分で守るしかない民達は不安な毎日を過ごしていた。
このままでは統治能力を疑われマイナスになると判断した高市様は皇后様に承諾を得てスメラミコトの名で食封を賜った。
スメラミコトの皇子、近江の帝の皇子、寺院と幅広く賜り、和を訴え人心の安定に努めたがスメラミコトの病状はいくら秘しても伝わりやがてくる神の死を目前に人々は浮足だっていた。


「雨乃様、至急内密に雨乃様にお目にかかりたいと茉莉花様がおみえになっていますが。」
私は瀬奈の言葉に驚いた。
「大変!早くこちらに。急いで柊を呼んでちょうだい。」
「はい。かしこまりました。」
柊は驚いて駆け付けた。
「茉莉花様が直々のお越しとはどのような用でございましょう?」
「柊も知らなかったの?」
「はい…。」
と、話していた時に茉莉花様が入ってこられた。
「雨乃様、お久しゅうございます。」
「茉莉花様、こちらこそご無沙汰しております。よくお越し下さいました。」と、頭を下げた。
「茉莉花様、御用がございましたら呼んで頂ければ吾が伺いますものを。」と、柊はまだ茉莉花様の突然の来訪に驚いている。
そんな柊を見ながら
「何を申す。柊は今は雨乃様の警護を怠ってはなりませぬ。」と微笑んだ。
「あ、茉莉花様、どうぞお座り下さいませ。」
「まぁ、雨乃様は相変わらずで。そんなにお気遣いなく。実は今、翁は旅に出ておられます。」
「あら。茉莉花様を置いてお1人でですか?」
「はい。危険なのでそなたは連れていけぬと。」
「危険とは、翁はどちらに行かれたのですか?」
「それが、新羅に…」
「新羅???」
私も柊も素っ頓狂な声をあげお互い顔を見合わせた。
「驚きますよね。私も翁が新羅に行くと言い出した時は驚き止めましたもの。」
「いつからですか?」
「高市様後継を柊が報告したあとすぐに。相手の動きを知らずに戦略は立てられないと。」
「翁らしい…」
「それで今日茉莉花様がわざわざ足をお運び下さったのは翁から連絡があったのですか?」
「はい。筑紫まで戻ってきました。一刻も早く讃良に伝えよ、と。どうしましょう?讃良様に、と言われても私はお目にかかったことがないし、身分などない普通の里の娘なので考えあぐね雨乃様のところに参りました。」
「そういうことだったのですか。わかりました。申し訳ありませんが茉莉花様、ちょっとここでお待ち下さいね。」
私は席を立ち瀬奈に声をかけた。
「志斐に私が急ぎ皇后様と話がしたいのですぐに伺いたいと伝えてくれる?」
「かしこまりました。」

そして…
「茉莉花様、初めてお目にかかります。讃良にございます。」
と、部屋に入ってくるなり皇后様は茉莉花様に頭を下げた。
私の報告を聞いた皇后様はご自分の部屋だと茉莉花様が窮屈であろうからこれから忍びで1人そなたの部屋に行くゆえ先に戻り待っていてくれ、と言われた。
茉莉花様が椅子から飛び降りあいさつしようとしたのを見て
「茉莉花様、どうぞそのままで。朕も座らせて頂きます。」と言い腰かけた。
「茉莉花様、朕は少女の頃に菊千代様と契りを結びたかったのです。何度も何度もお願いしたのに断られてしまいました。」と、笑いながら言われた。
まだ緊張している茉莉花様の気持ちを解きほぐすように
「菊千代様が妻を娶ったと聞いた時は衝撃を受けました。まさか婚姻なさるとは夢にも思うておりませなんだので。でもこうして茉莉花様とお目にかかれて嬉しいです。」と微笑んだ。
茉莉花様は困ったように私を見た。
「茉莉花様、何か?」
「いえ。雨乃様、讃良様と直接話して構わないのですか?」
「茉莉花様、讃良は菊千代様なくば皇后と呼ばれることもありませなんだ。今の朕があるのは菊千代様と此花一族のおかげ。翁を支え、里の者に読み書きを教えたり薬学を教えて下さる茉莉花様にはずっと感謝しておりました。どうぞお気遣いなくいつも翁と話をされるようにお話下さい。」
「讃良様、ありがとうございます。」

…やはり皇后様は素晴らしい方だ!と私は感心していた。

「翁は新羅に渡られたと雨乃より聞きましたが。」
「はい。讃良様のためには新羅の情勢がわからなくては話にならぬと献上のための財宝を持ち銀杏だけを伴い向かいました。」
「銀杏だけとは…危険な。」
「明日香が大変な折に儂のために人を割かなくとも良い、と。あ、でももう筑紫に戻りましたので大丈夫にございます。」
「して、翁の伝言は?」
「これを直接讃良様に渡し柊と2人だけで読むようにと仰せです。」
と、美しい倭紙に包まれた文を手渡した。
皇后様は受け取り
「此花の里の紙作りの技術は素晴らしい。他所で産される紙とはまるで違います。」
と、感心された。
「ありがとうございます。志斐様の兄上柏様が先頭に立ちどんどん新しいものを作っております。では讃良様、私は雨乃様とつもる話もございますので他に移りますが…。」
「茉莉花様、お気遣いなく。朕は自室にちょっと戻って参ります。雨乃、申し訳ないがここで茉莉花様歓迎の食事をしましょう。志斐を遣わすゆえ瀬奈と2人で準備させて下さい。雨乃は続き部屋で茉莉花様とお話の続きを。では、柊、参りましょう。」
と、部屋を出ていかれた。


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Posted by jasmintea♪ at 12:30│Comments(0)小説
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