2007年09月10日

謀反発覚

菊千代様…
しばらくぶりに会ったその人の面影を目の中に浮かべていた。
久方ぶりの出逢いはこんなにも心を揺すられるものなのか。
10年ぶりの逢瀬だったのに以前とどこも変わらず精悍で男らしかった。いえ、以前よりお若くなった気がする。
それに比べ朕は年を重ねた。皺も増え肌は乾き、体には肉がついた。
恥ずかしさに身を隠したいほどであったがそれより少女時代から愛しく想う人を見つめていたかった。
翁…

朕はふぅと大きなため息をついた。
「皇后様、お疲れではありませんか?」
雨乃が優しく尋ねる。
「そなたこそ柊の看病で疲れたのではないか?ご苦労であったな。」
柊はやっと普通の生活に戻られた。
鍛え抜いた強靭な体で、手早い処置があったから助かったものの回復するのに1週間もかかってしまった。
もし、大津に命中していたら、、そう思うと肌が粟立つような思いである。
朕は改めて翁と柊に感謝をした。
「喪が終わり謹慎がとけ、早く大津が迎えにきてくれると良いの。」
「はい。」
頬を染め嬉しそうに返事をした雨乃は初々しい。
子ができておることをもう気がついているのだろうか?

「皇后様、お話中失礼します。大嶋殿が火急の用件で目通りを願い出ております。」
志斐が告げた。
「すぐに通せ。」
大嶋は息せき切って入ってきた。
「大嶋、そのように慌てて如何した?」
「皇后様、大変でございます。先程川島様が…」
川島の名が出た途端に朕は悪い予感がした。
「川島がどうしたのじゃ?」
「先程高市様のところに大津様ご謀反の証人として出頭されました。」
朕と雨乃は顔を見合わせた。
「何ですって。大津の謀反の証人とはどういうことじゃ!」
「長年の友を告発するのは忍び難いが国家の一大事なので決意したと先般の訳語田での決起の様子と美濃での武器の隠し場所を詳細に書いた図を持ち大津様ご謀反を証言致しております。」
「高市は?」
「急ぎ皇后様にお出まし頂き指示を仰ぎたいと。」
「すぐ参る。大嶋、大津の安全のため訳語田を兵政官の兵で囲む。急ぎ準備をしておくれ。」
「承知致しました。」
「高市に今すぐ行くと先に伝えるように。」
「はっ」
大嶋は入ってきた時と同じように慌しく出ていった。
その慌しさが事態が深刻なことを物語っている。
大津が謀反とすれば己も同罪なのに何故川島が証人として訴えでたのじゃ。
長年の友?忍び難い?何を言っておるのじゃ。何が目的じゃ。
「雨乃、心配は無用じゃ。すぐ戻るからここで待っていておくれ。良いな。」
朕は顔が青ざめ突然の事態に困惑している雨乃を安心させるよう語りかける。
その雨乃の様子を見た瞬間に以前翁の占の話をした時の柊の言葉が稲妻のように甦った。
『あの娘は遠くない未来に絶望し自ら命を絶とうとするだろう。その時がきたら迷わずみぞおちを叩き気を失わせるように。』
まさか、まさか、これが翁の占か。考えたくはないが視野に入れなくては…。
「そうじゃ、雨乃。1人で待つのは寂しかろうから柊を呼ぼう。志斐、柊を呼んでおくれ。」
「かしこまりました。」
朕は柊がくるまでの間、念入りに化粧をした。
眉を三日月の形に意思的にキリリと描き、紅を差す。
誰にも侮られてはならぬ。大津は朕が守る、そんな強い意思を化粧に込める。
ちょうど化粧が終わる頃柊が到着した。
「柊、ちょっと急ぐので歩きながら話しをしたい。雨乃、心配することはない。ちょっと行ってくるからの。」
「はい。いってらっしゃいませ。私のことはご心配なさらずに。大津様をよろしくお願いいたします。」
と、深々と頭を下げた。
どれだけ不安じゃろうに朕を安心させるように青ざめた顔に微笑を浮かべている。
朕は目で返事をし、部屋の外に出て雨乃に聞こえない場所に出、
「柊、さっき大嶋がきての、大津の謀反を川島が証言するために出頭したと言うのじゃ。とりあえず瀬奈を使い翁に知らせておくれ。」と指示をした。
「はっ。」
「やはり川島だったの。」
「…」
「そんなことはないとは思うが以前そちが言っておった翁の言葉が気になり呼んだ。雨乃から目を離さないように頼む。翁への連絡が済んだら瀬奈もそばに置いておくれ。」
「かしこまりました。雨乃様のことは吾におまかせ下さい。それより皇后様、皇后様は大丈夫にございますか?」
「柊、気遣いありがとう。大丈夫。朕は何があっても大津を守る。たった1人の愛し子じゃからの。雨乃をよろしく頼みます。」
皇后様は戦場に赴くように正殿内安殿に向かった。


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Posted by jasmintea♪ at 20:42│Comments(4)小説
この記事へのコメント
かなり役得というか・・・いいキャラに名前付けてもらってしまったなぁ。ありがとうございます。
Posted by 菊千代 at 2007年09月11日 19:27
とんでもない…。先日も「このような爺なので」って書きながら悪いなぁ、、、と反省していました。
でもこのオリジナルキャラに菊千代さんの名前を頂くことによってイメージが膨らんだと自負しています。
こちらこそ、ありがとうございます!です♪
Posted by 雨乃 at 2007年09月11日 23:11
菊千代って『七人の侍』の三船さんのキャラの名前なんでがっしりしたイメージなんですが、この小説の影響で”敏捷爺さん”のイメージになってしまいましたw。でも、それもよろしいのではないですか。それだけキャラがしっかり描けてると受け止めてください。
Posted by 菊千代 at 2007年09月12日 19:12
そうおっしゃって下さるとありがたいです♪
なかなかキャラ1人、1人を表現をするのが難しいですね。
こんな人だったかも!を最後までに描けると嬉しいです♪
Posted by 雨乃 at 2007年09月12日 22:11
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