2人の証言

jasmintea♪

2007年09月13日 22:45

内安殿に着くと既に高市の他に主だった諸王・群臣が集まっていた。
これだけの人の前で大津に不利なことを証言されたら引っくり返せるのであろうか?
訳語田の大津の邸で謀議が繰り広げられたのは事実なのじゃ…。

「川島皇子、皇后様の前で今一度証言せよ。皇后様はスメラミコトのお声を聞くことができる。嘘偽りは偉大なる亡きスメラミコトに対する叛逆であることを忘れずに心して証言するが良い。」
高市が凛としたよく通る声で告げた。
「私、皇子川島は亡きスメラミコト、皇后様、高市様に嘘偽りは申し上げません。」
「よし、証言せよ。」
「9月23日、訳語田の皇子大津の邸に集まりし30余名、名前は先ほどの供述とおり、は、武力を以って大津をスメラミコトにせんことを計画し、みなが志を一にすることを誓いました。」
おおっ!
内安殿の中にどよめきが広がる。
「美濃に既に大津の舎人、礪杵道作が集めた武器がございますので、先のスメラミコトの先例に倣い一旦美濃に逃れ行心を新羅との連絡役とし、支援を受け決起することとしました。」
新羅の支援だと?この国を新羅に売る気か?驚きと怒りの声が沸き上がる。
…川島、何を言う、みなを煽動したのはそちで大津は何も言わなかったでないか!何が目的でこんな証言をするのじゃ?何が望みなのじゃ。これ以上の証言はすべてが大津の責任にされ取り返しがつかないことになる。止めなくては。
「高市!」
「はっ。」
「川島の証言はわかった。兵政官長藤原大嶋を呼んでくれ。」
「兵政官長藤原大嶋、ここに。皇后様のお召しじゃ。」
人を掻き分け大嶋が出てくる。
「はっ。藤原大嶋にございます。」
「兵を出し訳語田を囲み大津皇子に川島皇子の証言を伝え糾明する任を与える。同時に川島の証言した30余人を拘束せよ。逮捕ではない。自発的に出御を促せ。」
「かしこまりました。」
「高市、大嶋が戻るまで一旦散会としましょう。」
「皇后様のお心のままに。」と、頭を下げ一同に向かい告げた。
「皆の者、兵政官長藤原大嶋に大津皇子謀反の件の尋問を任じた。藤原大嶋がその任をまっとうするまでここは散会とする。」
と宣言し朕と高市は退出しその場はお開きとなった。


大津に尋問に行った大嶋の帰りは思いの外早かった。
「ご苦労であった。如何じゃ?」
「皇后様、大津様は川島様の証言を全面的にお認めになり速やかな処分をお望みにございます。」
「……」
「罪は吾にあり、新羅僧行心と我が舎人道作以外は謀議にも加わっていない、9月23日の件は酒を過ごして盛り上がりそんな話も出たがあくまで酒宴の席でのことでみなに罪はない。行心と道作も吾の死を以って罪一等を減じて頂けるようにと皇后様と高市様に嘆願されております。」
大津、、予想はしておったがやはり…。
「そして声を落とし、『これは新羅の揺さぶりである。この身の奪還などと称し兵を出す口実を与えてはならない。重ねて速やかな処分を望む。』と、申されました。」
重苦しい沈黙が流れた。
2人とも口を開くことができず押し黙っている。
黙っていることに耐えかね先に口を開いたのは大嶋だった。
「皇后様、川島様は万人の前で大津様謀反を証言しました、謀反の証拠もある、そして大津様も全面的に認め処罰を望んでおられる。このうえは国家反逆の大罪を処罰しないわけには参りません。もし、皇后様が大津様をお救いになりたいと思し召しなら道は2つ。1つは道作がすべての責任を負い大津様は減刑とし流刑とする。しかしこれは大津様が承知されませんでしょう。あと1つは死罪を命じ刑を執行したこととしいずこかへ逃す。ただこれも大津様がご承知下さるかは…。ただ2つ目しか方法はないように思われます。」
朕は長いため息をつき目頭を指で押さえながら
「大嶋、奥の朕の部屋に行き柊に伝言を頼みたい。」と言った。
「翁に訳語田から此花の里までの道が安全か調べてもらいたい。新羅の者に大津が生きていることを気取られてはならぬ。」
「はっ。」
「雨乃に聞こえるように柊に伝えておくれ。柊はその場で情報をまとめ連絡には瀬奈を使うようにと。それと志斐に瀬奈の代わりに雨乃の近くにいるようにと。そのあと高市のところに行き大津の証言だけを報告しておくれ。」
「はっ。では早々にいってまいります。」と、大嶋は急ぎ足で出ていった。

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