2007年07月25日

番外編愛のカタチ 大海人皇子

☆人生の終わりに☆
病になってどれくらいになるであろう。
特にここ2ヶ月くらいは吾は夢の世界をさ迷っている。
みな吾がずっと眠っていると思うているが誰が何を話しているかは聴こえている。
見ている者にはわからないようだが話しかけることは出来ないが話の内容は理解出来ていた。
この躯にどれだけの時間が残されているのかわからぬが「スメラミコト」と呼ばれ「神」と称えられた我が人生ももうじき終わりを迎えようとしている。
スメラミコトとして思い残すことはないが一人の男子(おのこ)としては悔いの多い人生であった。

若い頃の吾は女子(おなご)は自分の欲望を吐き出す道具としてしか思うておらなんだ。
女子なら誰でも同じ。
見目の良い女子を抱いても、優しい女子を抱いても、気の強そうな女子を抱いても結局は同じ。
美しい女子を我が物にすることには狩猟にも似た満足感はあったが一度我が物にしてしまえばどの女子も変わりはなく二度同じ女子を抱きたいと思うたことはなかった。
そんな折、吾は母上のところで美しい采女を見つけた。
しかしその女子は今までの女子とは違い、贈り物にも、情熱的な愛の囁きにも、皇子と言う地位にも靡かなかった。
「私は体を合わせれば気が済むだけの殿方とは一緒になりたくはありません。」と言った。
何故吾が体をあわせれば気が済むなどと思うのじゃ?と不思議に思い問うと
「あなた様の目は私を愛おしいと思ってはいません。女子なら誰でもよろしいのなら私でなくとも構いませんでしょう。」、と言い放った。
何て女なのだ、と腹を立ててもその女は気品に満ち溢れ、何ものにも媚びない力強さを持ち、しかも母上と接する時には聖母のような優しさを見せた。
吾は次第に彼女のことばかりを考えるようになり、どんどん惹かれていった。
用もないのに母上の宮に行くものの彼女にまた拒絶されるのが怖くて話かけられずにいた。
そんな状態が続いたある日、宮から退出しようと母上の部屋を出ると外に彼女が立っていた。
吾は突然訪れた偶然に胸の高鳴りを押さえきれずに「どうしたのじゃ?」と上ずる声で聞いた。
「大海人様を待っておりました。額田はあなた様とたくさんの話をいたしたく存じます。」
女子の身で皇子を誘うとは何という大胆さじゃ。そして吾の心の変化を見抜いていたその細やかな眼力にも驚いた。
彼女と初めて体を重ねた時は今までに経験したことのない陶酔を感じた。
心に想う女子を抱くことは何と幸せで心満たされることなのだ、と感じたあの日の喜びを今でも憶えている。
そうじゃ、吾は一生彼女と、彼女が授けてくれた愛おしい娘を守りたかった。
それなのに吾は彼女を手放し、結果大切な娘も自殺に追い込んでしまったのだ。
必ず守ると誓った大切な大切な吾の宝だったのに。
彼女に対する罪は償っても償いきれない、いくら悔いても時間は戻らないのだ。

それなのに、額田は昨日も吾を訪ね吾の顔を見ながら静かに座り、若かりし頃の話を1人していた。
「大海人様、覚えています?あなたが初めて私に話しかけて下さった時、私は本当はとっても嬉しかったのよ。あんなに生意気なことを言ったけど私は初めからあなたを想っていたの。私を見つけてくれて、愛してくれてありがとう。」
…額田、何もしてあげることができなかったばかりかそなたを苦しめたこの吾に礼を言ってくれるのか。
吾こそ、そなたに礼を言いたいのに言葉を出すことができない…
「あら、大海人様、涙を流されて。」
彼女は吾の流した涙をその懐かしい唇で吸ってくれた。
額田、額田、何度生まれ変わろうと吾は必ずそなたを探し出す。
今度はそなたと十市だけのために生きる。
「大海人様、一人先に行くのは寂しいでしょうが私もじきに参ります。私が行くまでに大田様ばかりと仲良くしないで下さいね。そうでないと妬けてしまいますわ。ああ、やっと、今だからあなたに言える。女はいくら他の男性に抱かれようと真(まこと)の心をを捧げた方は絶対に忘れることができないのよ。」
「大海人様、×××」

額田、わかった。
吾は一足先に行きそなたを待っておるからの。
遠ざかる意識の中で額田を感じながら吾は母の胎内に戻っていくように再び眠りに落ちていった。



Posted by jasmintea♪ at 22:14│Comments(0)番外編
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